2005 07 / 01

名刺整理

 なんの気なしに古い名刺入れを整理していたら、見覚えのある名前が出てきた。 つい先日名刺交換したある偉い方の名刺だ。 十数年前、その方は違う会社で違う肩書きでいらしたのだ。

 お互いその時一度しか会っておらず、当然先日の名刺交換は「初対面」のつもりだったのだ。
 「そうか!会ってたんだー!」
と思うと、なんだかその方との不思議なご縁も感じたものの、 この事は自分の胸の内にしまっておこうと思った。

 なぜなら、私は今も会社を変わってないのだから、 自分にインパクトがなくて忘れられているという事ではないか。 社会人として、これはある意味「敗北」の証明みたいなものだ。

 当時は営業もやっていて、真夏に会社説明に行ったような気がする。 一通り仕事を終えてそのオフィスを出たとき、 アスファルトの照り返しがきつくてクラクラしたことだけはハッキリと覚えている。

 そんな物思いにふけつつ再び名刺整理をはじめたら、 今度は昨年亡くなったある飲食店経営者の名刺が出てきた。 この方には随分お世話になったものだ。

 バブルの時は週1くらいのペースで呑みに行っていたのに、 次第に私事都合で足が遠のいていった。 最後にその方とお会いしたのは、入院先の病院でじりじりと暑い夏の日に一人でお見舞いに行った時。

 お店に居た頃と変わらない笑顔で、私を迎えてくれた。
 「また来ます」
私のその言葉は、結局嘘になってしまった。

 まるで古いアルバムをめくるような、名刺整理になってしまった。 「名刺はその方の分身」と言うけれど、 確かに写真よりもずっと存在感のあるものかもしれない。

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